一昨日82歳男性症例の回答と文献レビュー

イチロウです。

一昨日の症例、回答します。

(アイキャッチ:世界自然遺産 知床)

自分ではさほど経験しているとは思っていなかったので
すごいスピードで読影し、若い割りに経験値が高く
よく勉強している同僚に聞いてみたところ
経験がない と言われ、

そうか、やっぱりそんなに高い頻度では出てこないんだなあと
思い、提示してみました。

回答は、、、

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膀胱壁内脂肪 です。
患者さんは82歳の男性で、単に慢性腎不全で通院中で
腎尿路の形態評価目的に単純CTが撮影され、

おやおや? 一瞬、気腫性膀胱炎か? まずい
と思ったのですが、熱も何も症状がなく
ルーチン的に撮影されていたもので、おかしい
ということで

実は、空気ではなく、脂肪なのではないか?
と思い直し、日本語で検索しましたが、
出てきたのが放射線科医がX でつぶやいていたものでした。
彼は状況証拠のみで、問題ないもと思います。と言っていたのですが
もちろんそれでは納得ができず、Pubmedで掘り下げてみたのですが

論文はさほどは出てきませんでした。
1つは

Kriegshauser JS, Conley CR, Hentz JG. Bladder wall fat on computed tomography with pathologic correlation. Clin Imaging. 2013 May-Jun;37(3):509-13.
で、
非造影CTによる連続患者200例をレトロスペクティブに調査した結果
なんとびっくりすることに30人、15%にもこの所見があり
男性に多く、過去に結石を呈したことのある患者に有意に多くみられたとのことでした。
病理学的には脂肪の存在場所は粘膜下だったようです。

抄録で、結果と結論が異なるので、論文を取り寄せないとわからないですが
結果では尿路感染症が有意に少なかったとありますが、
結論では逆を述べているので、これは信用できません。

一方、もう一つは
Thickman D. Fat within the wall of the urinary bladder: computed tomographic appearance. J Comput Assist Tomogr. 2009 Sep-Oct;33(5):695-7.

で、いわゆるJCAT で、かつてはRadiology、AJRに次ぐ比較的放射線科の中では
権威ある雑誌だったもので

23人の膀胱壁の脂肪がある症例のレビュー論文です。これでは症例の90%が男性で
非造影検査で80%以上が確認されており、有病率は2%未満だったと報告されています。
前記の論文と一致しているのは男性に多いことでした。
有病率は前記論文ではかなり日常臨床とかけ離れた有病率でしたので
2%未満というのは経験値に近いかもしれません。

今回提示の症例も男性であったことは論文と一致しています。

また、Radiopedia を見に行くと他にも論文が提示されており、
Philip AT, Amin MB, Tamboli P, Lee TJ, Hill CE, Ro JY. Intravesical adipose tissue: a quantitative study of its presence and location with implications for therapy and prognosis. Am J Surg Pathol. 2000 Sep;24(9):1286-90.
では、

この論文は病理学の論文であり、脂肪織の存在からpT1かpT3かを診断する際
膀胱壁に脂肪が存在していることを認識していないと
周囲の脂肪織に腫瘍が存在すると誤って判断してしまい
実際にはpT1なのにpT3と過剰評価をしてしまう可能性があると戒めています。

そのため、膀胱壁内には脂肪織が存在していることを知ることが重要で
実際標本を分析した結果
脂肪組織は膀胱壁の粘膜固有層と筋層に頻繁に存在していたと述べています。
特に深層 (外側) 筋層の筋束が膀胱周囲脂肪組織と無秩序に融合しているため、
膀胱周囲脂肪組織と深層 (外側) 筋層との区別は通常不明瞭であるため
実際は膀胱壁の脂肪織に腫瘍が存在するだけなのに、周囲脂肪織に浸潤していると
病理では勘違いするので、注意を喚起しています。

つまりこの論文では病理学的には膀胱壁内の脂肪はかなりの頻度で存在している
と言っているわけです。画像との対比がないので、実際のCT上の
頻度とは違いますが、病理学的にはpT1 と pT3と間違えてしまいそうになるほどに
膀胱壁内には脂肪が存在していることの病理学的に証明している論文です。

また、症例報告ですが、膀胱壁内脂肪の75 歳男性の報告もありました。以下
Patel RR, Javors BR. Intramural vesicular fat–an uncommon CT finding. Clin Imaging. 2012 Jan-Feb;36(1):75-6.
他の脂肪性の所見と間違えないようにと言っています。

以上、意外と論文が少ない
膀胱壁内脂肪織の症例について提示しました。
臨床的意義は少なく、病理学的には膀胱粘膜固有層と筋層に頻繁に存在するもので
男性に有意に多く、尿路結石経験者に多い 有病率は2%未満
というものでした。

まずは、気腫なのか脂肪なのかを判断することが必要ですが
よくよく見ると気腫性膀胱炎の空気は結構派手なので
数例見れば、見間違えることはないと思います。
また、脂肪の方は無症状なので、これも重要でしょう。

以上、イチロウでした。

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一昨日82歳男性症例の回答と文献レビュー への1件のコメント

  1. ジョイス より:

    こんにちは、今回も有益な情報提供ありがとうございます。膀胱壁の脂肪沈着は今まで何十年も気づかずに読影していたのだと思います。これから目につくようになると思います。遠隔読影憧れますね。

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