駅前のドトールより
イチロウです。
(アイキャッチ:世界遺産 ストラスブールの街並みです )
*ストラスブールは建築や文化などドイツの薫りを感じさせます。1988年に世界遺産登録されていたグラン・ディル(旧市街)に加え、2017年にノイシュタット(新市街)が登録拡大され、市の全域が世界遺産という世界でも稀な都市になりました。
さて、1昨日の私の答え
感染症リスクは限りなくゼロの私はたまたま有給日だった木曜日
花粉症の薬を求めて耳鼻科を受診しました。
咳もこの頃はかなり増えていたので 花粉症でそうなった
と思ったからです。
ちょっと引っかかったのは受診前日に痰が黄色かったこと。
また、前々日から起床時に両眼が腫れて、目やにが出て
起床から数時間は目が開けにくくなっていたことでした。
ちなみにコロナ検査は念のため発症(強い咽頭痛を発症時と判断)後
48時間経って、行ったところ陰性でした。
これまでの経過を話すと耳鼻科医は
風邪ですね。
私はついつい先入観から かかるはずもないんですが、、、
と診断にイチャモンをつけるやばい患者になってしまいました。
その後、しばらく、咳は発作的に出るには出ますが
全身状態良好のまま 経過は良好の様です。
先生も 風邪 と診断されますか?
って、「お前のことより 一昨日の症例の答えを教えてくれよ」
と言われそうなのでお話ししますと、、、
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症例は70歳代の男性が発熱、嘔吐、腹痛を主訴に来院。
単純CT上胆石を伴って、胆嚢は腫大、壁の肥厚が見られます。
造影ダイナミックでは横断像で胆嚢がくびれの様なものを挟んで腫大している様に見えます。
わずかに胆嚢壁は造影されてはいますが、壁の濃染は良好といえません。漿膜下の浮腫も目立ちます。
冠状断では胆嚢は胆嚢窩に収まらず、下方に茄子状に垂れ下がっています。
矢状断では胆嚢体部で壁が捻れていることがわかります。
この所見を見て、カルテを読んでみるとこれからPTBGAをしようとしていることが
わかりました。ま、まずい と思い。
鬼の首をとったが如く、主治医に電話して、それはやめて外科医に相談する様に言いました。
なぜなら 私は、”胆嚢捻転”を想定していたからです。
フットワークのめちゃくちゃ軽い
当院外科医は私の診断を信じてくださり
早速開腹胆嚢摘出術を施行されました。
しかし、しかし、しかし、、、、、
手術記録には捻転の記録がありません。
しかも、術後の診断名が 急性胆石性胆嚢炎に変化
なんですとー。
絶対に胆嚢窩に固定されないぶら下がり胆嚢、くびれを介して2つの腫大した胆嚢の形態
ありえない、しかも術前の造影後の壁の濃染はあまりよろしくない。
おかしい。と思い病理所見を読むと
粘膜面の凝固壊死、全層に出血、好酸球、好中球を含む炎症細胞浸潤あり
内腔や壁内に膿瘍形成あり、漿膜下層に間質浮腫、線維芽細胞増生とのこと RASもあり
急性胆石性胆嚢炎に矛盾せず とのこと
私は、密かに術前までは捻転があったと考えていましたが、
証明する手段はないのですが、矢状断のCT画像のあの状態の説明ができません。
また、全層性に出血、凝固壊死 というのも気になります。造影ごに濃染不良だったので
やはり虚血を生じていたと思うからです。
あと、MRCP single thick もいかにも捻れている様に見えています。
T2WIでは腺筋症が存在しているのはわかりますが、ややはっきりしません。
MRCPでは矢状断が撮影されていませんが、再構成をガタガタな画像で出すとやはりCTの矢状断と類似していました。
うーん本当に捻れているのでしょうか。私は捻れていると判断しました。
また、臨床経過はどう見ても胆嚢炎を示唆していますので、臨床医は画像からのアプローチでない以上、急性胆嚢炎と考えてしまうでしょう。実際に
念のためPubmed にて acute cholecystitis, CT, torsion で検索をかけると
24件のヒットがありました。
すぐに1件目には
Dhafer H, et al. Acute cholecystitis due to a gall bladder torsion. Int J Surg Case Rep. 2021 Sep;86
が出てきて、胆嚢炎所見で発症した胆嚢捻転例(26歳男性)が出てきます。
Free なので https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8363817/
Rosenblum JK, et al. Gallbladder torsion resulting in gangrenous cholecystitis within a parastomal hernia: findings on unenhanced CT. J Radiol Case Rep. 2013 Dec 1;7(12):21-5.
76歳男性例。
Gabizon S, Bradshaw K, Jeyarajan E, Alzubaidy R, Liew V. Gallbladder torsion: a diagnostic challenge. Case Rep Surg. 2014;2014:902814.
80歳女性例
などなど、捻転から急性胆嚢炎を生じています。
(私は炎症所見がなぜなんだろう、やっぱり捻転と合併は変だよなあと考えていたので
合併するという論文が多数存在するのは今後の勉強になりました)
今回の症例も臨床所見だけだと、急性胆嚢炎と考えられ、臨床医は壁を直接経皮的にさして
しまいそうになりました(病理は固定標本は真っ黒です。穿孔して腹膜炎となっていたことでしょう)。
もちろん壊疽性胆嚢炎などの重症の胆嚢炎であれば、全層性の出血壊死を呈していいのでしょうが、
とにかくねじれて見える矢状断が説明つきづらいです。
病理標本では実はねじれで無くて、体部くびれがありました。(病理医はくびれと記載しています:赤矢印)。
即手術に行ったことは結果的に良かったのですが、
実際に手術記録でも捻転所見を捉えていないのは残念でした。
先生はどの様に思われますでしょうか?
最終私的結論:急性壊死性胆嚢炎、術前捻転と思ったのは単にくびれを見ていた? でもでも、画像的に納得いかないので、術直前に捻転が解除されてしまった? と思いたいです。
PS. 先週から募集していましたが、一応お知らせしておきます。
うざい先生は無視してください。
今回も興味深い症例をありがとうございます。先生のご指摘どおり胆嚢捻転だと私も思います。胆嚢捻転は開腹の過程で捻転が解除されたり、ましてや解除された状態で病理に提出となれば捻転は推測するしかないため、術前画像がしっかり理解できる方でないと胆嚢捻転とは診断してもらえないかと思います。せっかくコメントしたのに悔しいですね。お大事になさってください。
ジョイス先生
いつもクイックで鋭い回答ありがとうございます。また、私が提示した意図をよく汲み取っていただき、背中を押していたただけるコメントも嬉しいです。
PS. おかげさまでお腹の調子が悪いのを除き、風邪症状はほとんどなくなりました。
by イチロウ