胸膜プラークと中皮腫との関係

駅前のドトールより
イチロウです。

さて、前回横浜のカンファランスの問題
選択肢が

① 悪性リンパ腫
② 中皮腫
③ Tb
④ サルコイドーシス
⑤ デスモイド
⑥ その他   となっていました。

まず、キーポイントは 3つほど
A.  肝外に突出していること
B.  FDGの集積は強く、SUV max が 16とかなりの高値である事
C. これは画像がないとわからないのですが Aとも関連してきます。
つまり冠状断で見ると 肝臓の外に突出しているだけでなく
肝臓外に存在しているように見える事でした。
バリバリの悪性 という事で・・・

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③、④、⑤が落ち、①は肝外のものから発生 つまり腹部では
腹膜由来と考えると
② の中皮腫が残る事になります。
① の悪性リンパ腫は SUV max からは除外しにくいですが
この症例は MRIが施行されておらず、リンパ腫かどうかの
ヒントが得られませんでした。
そうなると出題者の意図を理解することになり

おそらく②を出したかったのかな? と考え
中皮腫 の診断を選ぶことになります。

実はこの症例、胸膜プラークをこれ見よがしにヒントのつもりか
提示されていたのですが、実際にプラークの患者さんに
胸膜の中皮腫が同時合併した症例はなかなかいません。

当院でも4−5例の中皮腫を経験させていただいてますが
いずれにも胸膜プラークはありませんでした。

以下は75才 男性 中皮腫(病理で証明)例 プラークは不明瞭 対側にもない

つまり、以外と胸膜プラークと 中皮腫 って
関連性が薄い? と思っていました。

しかし、自分の常識は他人の非常識です。
画像診断におごりは禁物です。

Pubmed で Pleural Plaques and the Risk of Pleural Mesothelioma
というキーワードを入れて検索してみると・・・

79件がヒットしました。そのうち最もマッチした3件を見ると

❶Pairon JC, Laurent F, Rinaldo, et al.
Pleural plaques and the risk of pleural mesothelioma.
J Natl Cancer Inst. 2013 Feb 20;105(4):293-301.

5287人の男性被験者において7年間のフランスの追跡調査
胸膜中皮腫の合計17のが診断された。
中皮腫と胸膜プラークとの間に統計的に有意な関連が観察された。
胸膜プラークの存在は、胸膜中皮腫の独立した危険因子である可能性

❷Bianchi C, Brollo A, Ramani L, et al.
Pleural plaques as risk indicators for malignant pleural mesothelioma: a necropsy-based study.
Am J Ind Med. 1997 Nov;32(5):445-9.

胸膜プラークは、以前のアスベスト曝露の信頼できるマーカーとして認識
しかし、胸膜プラークがアスベスト関連悪性腫瘍のリスク指標
であるかどうかは物議を醸している。との前置き  あり

15歳以上の人を対象にイタリアのある病院で行われた
3,005件の”剖検”(CT所見ではありません)で胸腔内の胸膜プラークを検査した。
検討には悪性胸膜中皮腫患者92人(男性82人、女性10人)が
含まれていた。
胸膜プラークが胸膜中皮腫のリスク指標であるという考えと一致する。

❸Hillerdal G.
Pleural plaques and risk for bronchial carcinoma and mesothelioma. A prospective study.
Chest. 1994 Jan;105(1):144-50.

スウェーデンのある一般集団から、厳格な放射線学的基準(単純写真)を満たす
胸膜プラークを有する1,596人の男性
気管支癌が32例発生、中皮腫が9例
胸部X線写真上の胸膜プラークは、中皮腫、気管支癌のリスクが高い
という、アスベストへの有意な曝露を示しています。
胸部X線写真にプラークがあることが判明した人は誰でもリスクについて
知らされるべきであり、喫煙をやめるよう説得されるべき

という3つの関連性について言及した論文が見つかりました。

ただし、いずれもフランス、イタリア、スウェーデンと
ヨーロッパの論文です。日本人対象の論文はありません。

日本の日本呼吸器学会の ホームページを見ると
http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=34

胸膜プラークについて
胸膜の一部が厚くなって石灰化(組織が骨のように固くなっている状態)した状態。
胸膜プラークそのものから悪性胸膜中皮腫を含めたがんが発生することはありませんし、
特に体に不都合を来すことはないので放置しても心配ありません。

しかし、胸膜プラークが存在することはアスベスト(石綿(いしわた))を
吸い込んだことの証拠となります。アスベストの低濃度曝露でも高濃度曝露でも
発生するので、日本人であれば誰でもなる可能性があります。
検診などで指摘される場合もありますが、胸膜プラークのみであれば
必ずしも精密検査は必要ありません。

という感じで胸膜プラークのある人に
中皮腫が プラークとは関係のない場所に発生するか否か
について 全く言及していません。

どうしても、私が探した限りでは
プラークを有する患者さんに同時に中皮腫がどれくらい発生するのか?
ということへの直接回答は得られませんでした。

なかなか、プラークをCT上明らかに持っている患者さんに
中皮腫を同時合併して見れないのか? については今後の課題でしょうか。

一つ論文が見つかったのですが 日職災医誌,56:215─220,2008
では
手術所見で胸膜プラークを確認した症例のうち,
胸部 CT で胸膜プラークを検出できたのは60%であった

というのがあり、中皮腫の症例とプラークとの画像的な関連がない
というのは 40%はCTで見えていないので
言えない 可能性があるということです。

つまり、実際にはアスベスト暴露は受けているが

プラークそのものをCT上描出できておらず
CT上は一見関連性が薄い という可能性です。

このブログを読まれた先生で、明らかに胸膜プラークがあった症例に
中皮腫が発生した患者さんを見た という先生はコメントください。
お願い致します。

もう一つ、今回は腹膜中皮腫なので 一体
腹膜中皮腫ってどれくらい珍しいのか?  ですが
これについては
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/08/s0826-4b.html
厚生労働省人口動態統計による中皮腫の部位別死亡数(平成7~13年)
によると

胸膜中皮腫の 症例 2,739例に対し、腹膜中皮腫は 369例 という
頻度であり、
胸膜中皮腫7例に1例しか見ない頻度です。
これは知っていていいのだと思います。

ちなみにこの論文では 心膜中皮腫が 腹膜中皮腫の1/10
とのデータを出しています。

以上 横浜のカンファランスは 極めて稀な
腹膜中皮腫が 肝臓のヘリから出ていて 肝内腫瘍のように一見見せておいて
実は冠状断では肝外由来であることを読み取ることが重要という
症例でした。

イチロウ拝

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