駅前のドトールは
やはりやめれないイチロウです
急性腹症の診断は
放射線科医をしている以上
ほぼ切っては切れない疾患群です
しかし、急性腹症で
来院される場合、重篤な場合は
既に腎機能が落ちていたり
することもありますし
救急医のあってはならない
診断手法(とりあえずすべての検査前に単純CT)
のために
まずは単純CTを撮像する
というパターンもありえます
そのとき
上腸間膜動脈や
腸管壁が白い、といった所見は
非常に重要であることは
放射線科専門医ならずとも
放射線科に1年以上勤務していれば
当たり前の事項となっていることでしょう
今日はその中で
腸管壁が白いという
虚血所見がどのくらい
実際につかえるのか? という
ことを検討した論文を紹介しますね
これは後期研修医君が抄読会で
読んでくれたものですが
頭の悪い私は一回聞いただけでは
人に説明できないため
(また着目点も違うため、ざっと原文を読み直しました。)
こうして 先生に伝えることで
頭を整理することにします。
引用論文は
Geffroy Y, et al.
Increased unenhanced bowel wall attenuation at multidetector CT is highly specific of ischemia complicating small-bowel obstruction.
Radiology.2014; 270:159-167
対象はSBO (small-bowel obstruction: 小腸閉塞)
の患者を222人調べて(2006-2009年)
64列CTを行なって、7日以内に手術が施行された患者を
調べて
実際に虚血があった患者となかった患者で
CT所見をレトロスペクティブに検討し
この 単純CTでの壁の高吸収域という所見は
実際に機能するのか?を検討したものです
注意すべきは
手術をした症例を後ろ向きに検討している点です
なので、もしかすると
腸管壁が高吸収域を示したのに
手術が行われず問題なかったという
症例が存在していたか?という事はわかりません。
とにかく手術をして結果がわかったもののみを
検討したということです
結論を言えば、手術がなされるような
セレクトされた症例においては
単純CTでの腸管壁の高吸収域の
感度は56%で
特異度は100% だったと言う事です。
単純CT上の壁の高吸収域を見た場合は
“腸管壊死を疑っていい”
事になります。
もちろん造影検査が行えれば
造影効果がない腸管という所見は虚血の所見であり
感度は78%, 特異度は96% とこちらも
認められれば、信頼度は高いし
見つけられる頻度は80%近いです(逆に20%は拾えない)
ちなみに彼らが造影されたか否かの判定に
用いている撮像タイミングですが
1.5ml/kg の量の造影剤で
(60kgの人で90ml/body)
3ml/sのスピードで入れた場合の
70s の撮像タイミングです。
えっ? 3ml/sで注入しているのに
70s 後のみ? って感じですが
造影前と70s 後のみのようです。
再構成スライス厚は1.25mmと薄いです。
(外人論文に有りがちな経口造影剤は無しの様です)
彼らの論文でちょっと面白いのは
Feces like signを虚血と関係があるか検討した点
よく小腸閉塞点の口側に見られるので
閉塞点を早く探すために用いられている
Feces like sign (便塊様サイン)ですが
Catalano O.
The faeces sign. A CT finding in small-bowel obstruction.
Radiologe. 1997 May;37(5):417-9.
Faeces-like content within the lumen of the dilated loops above the level of the obstacle.
彼らは
それが虚血と関係すると言うのです(p=0.031)
ただし、感度は63%で特異度は69%とさほどではありません。
最後に何故虚血になると壁が高吸収域になるのか?
ですが、
動脈の閉塞と静脈鬱滞による出血性梗塞です。
なので、実際に診断する際には
周囲の壁の吸収域(正常では10-20HU)と
比較して高くなっているか?を見ることが重要です
まとめ
急性腹症の鑑別として 絞扼つまり
血流障害があるとき
もし、単純CTしかない場合は
周囲の腸管壁と比較して壁の高吸収域を示した時
同部は絞扼性イレウスと診断する手法は
感度はさほど高くない56%だが、特異度は100%
もちろん造影されているか否かを見る古典的方法は
最も信頼できて、感度78%, 特異度96% だった
もしかすると
小腸内の便塊様構造も虚血のサインかもしれない
当院症例 77 M
幽門側胃切除後、術後約6か月後に
突然腹部全体の痛み、嘔気、嘔吐あり受診
腹部単純CT 上左腹部の腸管壁は肥厚し、濃度が高い
内腔の液体も高吸収域を示し、出血を示唆
造影後のCTでは周囲の象徴と比較して濃染不良
当院症例 単純CT、造影CT 横断像、造影CT冠状断像
以上イチロウでした。